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インタビュー

復活! 立川女子高校山岳部 14年ぶりの海外遠征
―未来へ繋ぐ若い力立川女子高校山岳部

今の現役高校生が生まれた頃、「立川女子高校山岳部」と言えば山登りをしている人ならもちろん、そうでない人でも知っている強い部活だった。ところが諸事情が重なり第七次以降海外遠征が途絶え、いつしか「立女の山岳部」の栄光を知らない人も。かつて未踏峰の山に挑み、高校生ながら世界初登頂を成し遂げて都民文化栄誉賞を始め多くの表彰を受けた山岳部。ここにその復活の兆しが見えてきた。

立川女子高校山岳部

立川女子高校は大正14年(1925年)に創立、来春85周年を迎える。
山岳部は1959年に発足し50年の歴史ある部活動。
現在の校長である高橋清輝先生が顧問になってからは、《より高く より困難への挑戦》を目標に、高校生として日本初の海外登山を実施。

  台湾ユイシャンに登頂したのを皮切りに、大韓民国 雪岳山登頂ネパールヒマラヤ ゴーギョピーク登頂カナダ ロッキーツインズ北峰登頂ネパールヒマラヤ チュルー南東峰登頂アメリカ合衆国 アラスカ サンフォード遠征中国 コングールⅣ峰登頂と、数々の輝かしい実績を納めている。
1995年の遠征以降しばらく海外遠征がなかったが、今年8月に山岳部OG達による第八次海外遠征登山 ネパール ヒマラヤ ダンプス ピーク登頂を果たした。
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後列 左から4人目が山岳部を育ててきた高橋校長
写真提供:立川女子高校

桃井 尚志さん Interview

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立川女子高校 教諭 山岳部顧問 桃井尚志(ももい たかし)さん

1957年生まれ。埼玉大学数学科卒業。
新卒で立川女子高校教諭となり、勤続30年。根っからの鉄道ファン。
鉄道ファンらしく写真も趣味の域を超える腕前。サイクリングや山歩きが趣味で、立川女子高校山岳部としての活動は教諭となって2年目から。
海外遠征はカナダ遠征から皆勤、撮影担当として参加している。

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編集部

高橋先生から今回の遠征後お手紙をいただいたんです。高橋校長先生は心臓の手術をなさってまだ2年ですよね。

桃井

そうですね。
一昨年の6月に手術しました。

編集部

そのお手紙の中に病院のお医者さんたちから高度5000mを超えないという条件で今回も許可されたとあり、結果として、5600mの西稜まで登って隊長としての指揮をとり、その後は下山されたとか。その後の指揮は岳友桃井副隊長が登攀指揮をとれたことに満足していると書いてありました。

桃井

まあ、うれしかったというか。高橋先生は登りたかったんだと思いますからね。直下までは行きました。

編集部

高橋先生はお若いですよね。
立っている姿なんて40代でもなかなかああは立てない(笑)。

桃井

若いですよ。
50代の時でもバリバリ山登ってましたし、60代になってからもバリバリですよ。

編集部

桃井先生は立川女子高に就職されてからの登山。
それまで山の経験がなかったわけですから、どうでしたか?

桃井

でも鉄道が趣味ですから10kmくらいは平気で歩きますし、自然が好きですしね。
有名な立女の山岳部ですからどうなることかと思いましたが、それほどでもなかったです。
しかし、下りはちょっと。
あの頃の部員は足が速かった。走るように下りてっちゃって、それについていくのが大変でした。

編集部

これからの立女山岳部は、桃井先生が実質的には引っ張っていかなきゃいけないんじゃないですか?

桃井

校長はこの後もずっと登り続けるでしょう。ですから名誉顧問、最高顧問。
私はその元でお手伝いできる範囲でやらせていただきます。

編集部

どこの学校だって伝統を継承していくことが大事と考えていると思います。
まして私立なんですから、都立高校のように指導する先生がいなくなったから伝統が途切れるなんてことはないでしょう?

桃井

でも私は高橋校長のようにはできないですよ~。
高橋校長が本当に今日までひとつひとつ生徒に指導してきました。
高橋校長の元で山岳部に入りたくて立川女子に来る生徒がいますから。
私は何もやってきていませんからね~。

編集部

高橋先生はドクターストップがあるわけですから、頂上までいけないこともでてきますよね?
そうしたら‥‥。

桃井

教諭としては自分しかいませんからね。頑張りましょう!
でも、高橋先生が育てた優秀なOGがいてくれますから。

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第八次海外遠征登山のメンバー
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編集部

新しく立川に移転してきた極地研究所には、南極に行くくらいですから山が趣味という方が多くて、そういう方は皆さん立川女子高校山岳部は知っていますよね。統計数理研究所のパンフレットの最後のページには山歩きを趣味とする職員の方が、このような山岳部のある立川に来られたことが嬉しいというようなことを書いていましたし。本当に有名なんですね~。

桃井

高橋校長が有名なんですね。私なんてそんな人いたの? みたいな感じですよ。
そのようなイメージでこれからも頑張っていきますよ(笑)。

編集部

世の中は、いま山ブームですよね。女の子の富士登山とか、とっても流行っていますよね?

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立川女子高校OG、左から横溝朋美さん、リーダーの中島由香里さん、関沙織さん、坂本優さん
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立川女子高校OG、左から写真家 冨島和子さん、浦野学園副園長 浦野佳代子さん、一番右はサポート隊員 八王子市立石川中学校校長 櫻井郁男さん
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立川女子高校校長、山岳部顧問 高橋清輝先生
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桃井尚志先生

桃井

そうなんですか?
鉄子さんがいるのは知っていました(笑)。

編集部

いえ、鉄子もそうですが、山は森ガール以降、山ガールというのか山女というのか、流行っているんです。こちらの山岳部にも新入部員が入ったじゃないですか。 そんな初心者でも山に行くんですか?

桃井

行きます。行くと思います。
うちの山岳部の雰囲気では、登れてしまうと思いますよ。OGたちが来て面倒見るでしょう。
8月のダンプス ピークの時も、しっかりやっていましたからね。
かつての名キャプテン中島なんて、最後は高山病でフラフラだったと思いますが、高橋校長に「キャプテンなんだから辛い顔をするな」と一喝されて笑顔で登っていたんだと思います。

編集部

高橋先生は「全員登山」といいますか、みんなで登ろうっていう考えで山岳部を運営してこられたそうですね?

桃井

そうそう。あれはすばらしいと思います。
絶対全員登山って言っていて、その通りにしますから。

編集部

世の中にはそうでない登山もありますよね。パーテイーの中の誰かが登頂すればいいみたいな。

桃井

パーティーで行った時に1人登れば成功なんですよね。それが普通みたいです。
でも、私はこの学校に入ってきてここで登って、山といったらみんなと登るものだと思っていますから、高橋先生の登り方がすばらしいと思います。 みんなで行く、そうでなければ意味がない、みたいな。それは高校という性格もあるでしょうが、みんなで、って私もそう思っています。

編集部

全員で登るって大変なことじゃないんですか?

桃井

大変ですよ。
チームワークっていったって、高校生だし、女の子ですからいろいろありますしね。
でも、最後には1つになっていくんですよ。なんだろう、自分に負けたくないとかライバル意識とかいろいろな要素が混じり合って、いずれ全員が頂上を目指して行くんです。とにかく最後は精神力です。

編集部

なるほど~。

桃井

高橋校長がその精神力を培ってしまうんですよ。絶対に途中でめげないような。
あれはすごいですよ。
「高橋先生は技術論ないですからね」って言う人がたまにいるんですが、もちろん山に登るためのイロハはきちんと教えている。歩き方とか冬山ならピッケルの使い方とかザイルの使い方とか。

編集部

でも精神論の方が強い?

桃井

強い。だって3年間で6500m登るような部員に育ててしまうんですよ。
そんな技術論、教えられないと思います。
新入生は山を全く知らない子たちばかりですからね。

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3枚とも 撮影:桃井尚志

編集部

高橋先生がクレバスに落ちたって聞きましたが。

桃井

そう。
その時はもう死んだと思いましたね。
その時はたまたま落ちたところが20m下でした。20mってザイルの届く範囲なんです。とりあえずザイル落としてみようとか周りで騒いだんです。そうしたら声が聞こえてきたんですよ。高橋先生の声が。それで生きてる!って。

編集部

ええ。

桃井

それからはもう大変。
ザイルを2、3本落として、穴が広がらないようにヘルメットを噛ませて、高橋先生はどうしたらいいかわかっていますから、「いいぞ」っていうことでみんなで引っ張って上げたんです。上がってきた時は、生きてた!って涙が出そうでした。「ここはクレバスで落ちたらギシギシギシギシ動いて、遺体がでるのは150万年後の一番下の方だ」って言われて登りましたから、落ちた時もう絶対会えない、150万年も生きてらんねえよなって思いました。

編集部

真っ青でしょ

桃井

真っ青にならない。
変に落ち着いちゃって。
もうシーンとして、穴だけ見える。
なにが起きたかわからない。

編集部

こわいですね~。

桃井

高橋先生はすごく落ち着いていましたね。あの人は動じない。
アラスカ行った時は登っていって振り返ったら、脳みそみたいな縞模様になっていて、その1つ1つがクレバス。本当に迷路を行きつ戻りつしながらやっとここまで来たというのが見えるわけです。けれど不思議に怖くないんです。自分ひとりで引率して怖くないかって言うと、それは謎ですね。

編集部

高橋先生がいるとこわくないんですかね?

桃井

そうかもしれないですね。でも生徒と一緒だったら勇気が出ちゃうかもしれないですね。
絶対に失ってはいけない命を抱えていると、結構強くなっちゃいますよね、特に男の場合は。
でもやっぱり、何が起きても動じない高橋先生を目の当たりに見るとね、びっくりしちゃうし、尊敬しちゃいますね。

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編集部

あんな高いところで非日常を体験するってどんな感じなのかな?

桃井

ただ「生きている」って思う。男とか女とかも意識しなくなる。
共に生きているっていう感じです。
とにかく頑張って生きて登って帰ろうみたいな。生きていることを実感しますよ。

編集部

命がけなんですね?

桃井

命がけは命がけです。最後は死ぬ覚悟で行ってますから。
死んでもいいやではなくて、生徒がそういう目に遭うなら、自分が死のうっていう覚悟です。
みんな生きて帰るために自分も頑張りますけどね。

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編集部

桃井先生が普段話していてもそんな覚悟なんて見えてこないですよね(笑)

桃井

だって、そんなの出せないですよ(笑)

編集部

恥ずかしがりやだから、ですね。

桃井

でもその覚悟はあるんですよ。
ある程度の身辺整理はしますもん。

編集部

え! 遺言とか書いちゃうんですか?

桃井

書きませ~ん。僕の場合は、あの電車乗ってないから乗っておこ~っとか。(笑)

 

写真:五来孝平、中村伸

月刊えくてびあんで掲載した「立川女子高校山岳部」の記事はコチラから。