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インタビュー

先生はおみくじカウンセラー
神仏のメッセージを受け取る十文字学園女子大学短期大学部准教授 平野多恵氏

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平野多恵さん
十文字学園女子大学
短期大学部准教授

日本古典文学学術賞 第5回受賞者
平野多恵さん(十文字学園女子大学短期大学部准教授)

受賞対象研究業績は
『明恵 和歌と仏教の相克』笠間書院。
ユニークな人柄にすっかり興味津々。

編集部

すばらしい賞の受賞おめでとうございます。

平野

ありがとうございます。

編集部

と言いながら、先生のご本、まだ読ませていただいてないんです。

平野

あ、いいんです。
ただ、あの本のあとがきを読んで頂くと、私のこれまでというのがもっとわかって頂けるかもしれません。

編集部

おもしろい経歴ですよね。オウム真理教に入りそうになった経験なんて、そうないと思います。そもそもどうしてオウムに?

平野

私は日本で生まれて日本語環境の中で育って、日本の文化に親しんでいる。
高校生の頃、自分の感情を持て余しているようなところがあって、自分自身のことが実は一番わかっていないんじゃないかと感じて、国文学か心理学のどちらかに進みたいと思うようになりました。
結局お茶の水女子大の国文学に入るわけですが、大学の掲示板に「日本印度化計画」というサークルのポスターがあった。それがそもそもです。要は週に何回かカレーを食べながらインドについて語ろうよというサークルです。

編集部

カレーを作って食べる?

平野

そうです。手作りのインドカレーを食べながら、自分の感じていることや東洋思想の話、ヨガの話や気功の話もしました。ヨガに興味を示すと、ヨガの合宿に誘われました。後で分かったのですが、そのサークルの母体がオウムでした。いろんな修行があって、蓮華座を組んで修行をしていた時です、突然ジャンプし始めたのです。いわゆる空中浮遊ですが、それは生理的な現象で、正確には、痙攣のような形のジャンプでした。

編集部

へえぇ。

平野

他にも、足を上にして固定するポーズを1時間以上続けて、前世や過去が見えたと言う人もいて(笑)。
はじめての経験でジャンプしたので、才能があると言われ、もっとすごい先生がいるからそこへ行きましょうと誘われました。私がラッキーだったのは、その後すぐに夏休みで、ちょうどインドへ旅行する予定があったことです。旅行の後で、そのすごい先生のところへ行く約束をしていました。
でも、インドから帰ってみたら、そのサークルで知り合った仲間が合宿をきっかけにオウムに入信していたのです。その後、このことが週刊誌に取り上げられて、「日本印度化計画」がオウムのダミーサークルだと知られるようになりました。

編集部

で、先生はその後もインドへ?

平野

旅行にはまってしまったんです(笑)。オウムの人たちがサイババは偽物だと言っていたので、じゃ、本物の宗教者って何だろうと思ってサイババのところにも行きました。

編集部

ええ?

平野

サイババのアシュラムには、難病や悩みを抱える人が世界中から集まっていました。
日本でもその頃サイババが流行っていて、大阪のおばちゃんたちが団体ツアーで来るほどでした。
インド、ネパール、タイ、ミャンマー、ベトナム‥‥、とにかく仏教と関係のある国を長期休暇のたびに旅行して、最後は神戸から鑑真号で上海、西安、シルクロードでパキスタンに入りました。

編集部

ところで、受賞対象は明恵上人についてでしたが、先生の人生のどこで明恵上人は登場するんですか?

平野

明恵はですね(笑)、卒業論文でやはり何かしら宗教に関わることをと思っていたところ、短い期間に何度も「明恵」と出会った。雑誌だったりテレビの番組だったり。 明恵が私を呼んでいると思いました。しかも明恵は鎌倉時代にインドへ行きたくて2度渡航計画を立てている。それも私にピッタリだし、もともと心理学に興味があったので、明恵の残した「夢記(ゆめのき)」にも強く惹きつけられました。それで卒論に明恵を選んだんですね。
卒業論文ではこの「夢記」と明恵の和歌について研究したのですが、大学院入試の面接審査の際に、「夢記」のところはよくわからなかったと言われてしまいました。東大の大学院は伝統的で堅実な国文学の手法を学ぶ所ですし、そのときに「夢記」を文学として研究するのは難しいと悟りました。大学院で明恵を研究するには、和歌などからアプローチしないと認められないなと‥‥。

編集部

「夢記」の方が本当は研究したかったんじゃないですか(笑)。

平野

はい。でも、明恵の和歌もアウトローなところがあって、そこも私の好みに合ったんです。明恵が修行の境地を和歌に詠んでいたことに興味を覚えました。
いったんは研究を諦めていた「夢記」ですが、その後、「夢記」研究の大家である奥田勲先生にご指導いただく機会を得て、「夢記」を読む研究会をつくり、10年ほど前からその注釈を少しずつ進めています。

編集部

宗教がお好きなんですね。

平野

はい、好きというか、興味があります。無宗教で育ったから興味がある。明恵は華厳宗のお坊さんでしたが、真言密教をはじめとして、一生涯、よりよい修行法を求めて試行錯誤し続けた人です。

編集部

今の日本では宗教の話題はタブー視されがちですよね。

平野

それがいけないと思うんです。オウムのサークルには、生きる意味や宗教について真剣に考えたいと思っている人が多くいました。今も、いろいろなことを真面目に考えている若い人がたくさんいるはずですが、今ではオウムがあったことを知らない人も増えている。危険だと思います。
私がオウムに入らなくて済んだのは、やはり少人数教育のお茶大に自分の居場所があったから。さらに研究をして原典に当たって調べることを通して、自分の頭で考える訓練ができたこと、この環境に救われたと今になって思います。何かを求めている人が心から話せる場所を大学内に作る、これも大事だと思っています。

編集部

では、使命感を感じていらっしゃるのではないですか?

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平野先生と一緒に諏訪神社と阿豆佐味天神社へ。
どちらにも和歌が最初に書かれてあります。
スタッフが引いたおみくじに、先生が解説を加えてくれました。先生のおっしゃる通り、心願成就を祈念したら、2枚とも同じような内容でした(笑)。

平野

それで‥‥、じつは最近おみくじの研究をしているんです(笑)。おみくじって、運試しのような感じで適当に引く人も多いと思いますが、真面目に引き始めると結構ありがたいものです。
おみくじは、神仏のお告げが何で表されているかで、大きく二種類に分けられます。お寺は基本、漢詩。神社は和歌です。この漢詩や和歌をどう読み解くかがおみくじの醍醐味です。和歌を読み解くと、そこに神様のメッセージがあり、漢詩には仏様のメッセージ。
心を集中して神妙におみくじを引くと、不思議と自分の状況にふさわしい結果がでます。神社やお寺にはそれなりの磁場がありますから、ちゃんとそういう所で引くのが大事です。

編集部

説得力ありますね~。

平野

台湾に行ったことはありますか?
台湾ではおみくじを引いていいかどうかを仏様にうかがいを立ててから引きます。お寺には引いたおみくじを解説してくれる人もいます。じつは、かつては日本にも、寺社でおみくじを引いたときに解説してくれる人がいました。自分で引くだけだと吉凶しか読まないけれど、吉凶の結果はあまり重要ではなくて、それよりも自分の人生に合わせて神仏のメッセージを受け取ることの方が大事なんです。そのためには、おみくじの漢詩や和歌の意味を解きほぐす必要があります。古典文学を研究してきたことを生かして、いつか、おみくじカウンセラーになりたいと思っています(笑)。

編集部

占い師みたいで怪しい(笑)。

平野

(笑)いいアドバイザーになるんです。前向きになるアドバイスができる占い師。 悪い占い師はいたずらに恐怖心を煽りますが、そうではなくて、正しく神仏のメッセージを渡せるように。今、授業でそんなことも教えていて、学生たちもおみくじに興味を持ってくれます。