インタビュー

オーロラの不思議国立極地研究所 副所長 佐藤夏雄氏

国立極地研究所 副所長 佐藤 夏雄(さとう なつお) さん

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国立極地研究所副所長
昭和基地とアイスランドでのオーロラ同時観測によるオーロラの南北半球の対称性・非対称性の研究、及び、国際短波レーダー網であるSuperDARNレーダーを用いた電磁圏変動の研究を行っている。
理学博士(東京大学)

聞き手 清水恵美子(しみず・えみこ)/えくてびあん&多摩てばこネット編集工房

オーロラはどこで見られる?

編集部

オーロラって日本では見られないんですか?

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写真提供:国立極地研究所

佐藤

日本だと北海道で、10年に1回とかそんな割合で、太陽活動の極大期に見られるけれど、見えたとしてもぼんやりとした明るさですよね。見てもまず感動することはない。感動するような激しく明るいオーロラは日本じゃ見られない。
アラスカ、カナダ、スカンジナビア、アイスランド、そして南極昭和基地。そこはみんなオーロラ帯です。ですから条件は同じ。出る確率はみんな同じだけれど、空の上の現象だから天気が左右してきます。晴れていないと見えませんからね。

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編集部

ポーラルートで見たと聞きましたが、飛行機からも見えるんですか?

佐藤

見えますよ。ただ、暗くないと見えません。飛ぶ時間が関わってきますね。またオーロラ活動が活発でないと見えないし、右に座るか左に座るかでも決まるし。極側に座らなきゃダメですね。

編集部

オーロラってどのくらいの高さで光っているんですか?

佐藤

オーロラが起きているのは100kmから500km。薄い空気がないとオーロラは起きません。

オーロラのしくみ

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ニードル状オーロラ
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2点とも 写真提供:国立極地研究所

編集部

オーロラって、何が光ってるんでしょう?

佐藤

電子が勢いよく降り込んで大気の粒子と衝突して光っています。上空の薄い大気は電離して、電気を帯びた酸素や窒素の原子・分子となっている。電離している場所を電離圏と呼び、その下辺が90kmから100kmで、そこから上でないとオーロラにはならないんです。

編集部

ゆらゆら見えますよね。それは空気が揺れてるのですか?

佐藤

私たちの目には美しいオーロラの形に見えますが、その形に沿って電子が降っているということになる。降ってきた電子が、電離している酸素や窒素の原子・分子にぶつかって光るわけだから、パラパラ降ってきていると弱くぼんやり見えるが、塊で降ってくると明るいカーテンのように見えるというわけです。風で動かされているように見えますが、そうではなくて、大気は動いていない。降って来るものの場所がどんどん変わるということです。

編集部

降ってくるっていうのは、どういうことですか?

佐藤

地球には磁場(磁石)があって、太陽にも磁場があります。その両方の磁場の方向が反対になると磁力線がくっついて、太陽から飛んできているプラズマが地球の磁石に取り込まれて地球の夜側に蓄積されます。その後、プラズマは地球の磁場が収束している北極や南極に飛び込んで電離した大気にぶつかって光る。

編集部

オーロラが赤かったり、青かったり。あの色は降ってくるものが違うということですか?

佐藤

降ってくる電子のエネルギーと大気の種類が色に反映される。窒素に高いエネルギーの電子が衝突すると青になる。酸素に高いエネルギーの電子が衝突すると緑、弱いと赤くなる。またすごく強い、激しいのは下の方がピンク色になる。ピンク色になるのはヘリだけなんですよ。それはオーロラ爆発といって、それを見ると本当に感動する。それはせいぜい5分か10分しか続かないから、予報があって待ち構えていないと見られない。

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アーク状オーロラ
3点とも 写真提供:国立極地研究所

編集部

爆発って、オーロラは音もするんですか?

佐藤

電波ではすごくしているんです。実際に耳で聞こえる音はしない。でも音がしてもおかしくないほどの、すごさですよ。

編集部

っていうことは、オーロラの中は電気がいっぱいなんですか?

佐藤

ある意味では電気がいっぱいですよね。強烈な電流が流れるんです。

編集部

感電したりするんですか?

佐藤

感電はしないけれど、オーロラの大嵐のときは変電所が壊れたりという例はいっぱいあります。カナダとかアラスカとかではね。

編集部

きれいなだけではなくて、力もあるということですね。

佐藤

そうですね。力はある。普通の発電機の何個分もの力があります。

編集部

その力をエネルギーとして使うことはできないんですか?

佐藤

使いたいですよね。使いたいけどむずかしいんですよ、一瞬だから。

編集部

蓄えることはできない?

佐藤

残念ながらできない。

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編集部

本当に残念ですね。オーロラ帯というのは、地球に鉢巻きをまいたような形だそうですね。

佐藤

はい。そこに集まりやすいということですね。地球の磁場の形があって。
オーロラの源は太陽です。プラズマがいっぱい出ている。それが地球までずっと吹き出ている。それが地球に取り込まれる。取り込まれ方がむずかしくて、簡単には説明できないんです。講演していても、オーロラの仕組みの話になるとみんな眠くなる(笑)。

先ほど話したように、太陽と地球の磁場の関係でプラズマが地球に取り込まれて地球の磁場の夜側に貯まる。貯まったら、今度は吐き出す。吐き出して経路に沿って動くのだけど、粒子はかってには動けない。磁場の流れに沿ってしか動けない。
そうすると、その流れの経路は南極と北極のオーロラ帯につながっているので、そこでしかオーロラは見られないということになるんです。

地球と太陽

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宇宙から見たオーロラ帯
写真提供:国立極地研究所

編集部

つまり、オーロラって地球と太陽の関係っていうことになりますか?

佐藤

その通りです。太陽がくしゃみをしたら地球が風邪をひく、その関係です。
太陽っていつも同じように輝き続けているじゃないですか? そう思っているでしょ? 変わったとしても、太陽そのものが変わるのではなく、季節とかで変わると思っているでしょ?
違うんです。太陽は時々刻々、秒単位で変わっている。それを知らせてくれるのが、オーロラなんです。

編集部

なるほど‥‥。
太陽が変わる‥‥、
ちょっと想像できないんですけど。

佐藤

コロナの大爆発が頻繁に起きるような太陽活動は11年周期で変化しています。最近の人工衛星観測の進歩で、1日前に大爆発があることがわかるし、1時間前にはどのくらいの影響が地球にあるかがわかる。太陽のものすごいエネルギーがわかる。すごいオーロラが見られるぞってうれしくなります。

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コロナ状オーロラ
写真提供:国立極地研究所

編集部

オーロラ爆発って、どういう風になるんですか?

佐藤

急に明るくなって激しい動きがあって、真上を通り過ぎる時にはコロナ状オーロラが空を覆います。その光景は光のカーテンが乱舞しながらものすごい勢いで通り過ぎて行くという感じで、まったく別世界ですね。下が明るくなって、色がすごい。写真を撮るんだけれど、撮りながら感動して、感動をどう表現していいかわからなくてみんな吠えるだけですよ。

編集部

作ることのできない、自然のすごさですね。
南極の観光ツアーってありますよね?

佐藤

ツアーは夏に限られているので、いいオーロラが見られるかどうか。昭和基地はオーロラを見るには絶好の場所だけれども、越冬するから見られるんですよ。南極観測隊の夏隊は行きと帰りの船の中で少しだけチャンスがある。

編集部

船には長く乗るんですか?

佐藤

長いですよ。
船に乗るのは長いけれど、オーロラ帯を横切るのは少しの間だけ。

編集部

オーロラにロケットを打ち上げたこともありますよね?

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バンド状オーロラに
ロケットを打ち上げたところ
写真提供:国立極地研究所

佐藤

昔、打ち上げましたね。10次隊が最初で26次隊が最後の打ち上げでしたね。大変なんですよ。激しいオーロラが来るときにロケットを打ち上げるのですが、命中させるのがむずかしい。ロケットはオーロラに到着するまでに10分くらいかかる。準備して、10分後にオーロラがロケットのところへ来たら命中。だからオーロラの無いところに向かって打ち上げるんですよ。オーロラは動いているから。

編集部

今はどうやってオーロラを調べるんですか?

佐藤

人工衛星観測が主流ですが、地上からの光の観測やレーダーを使った電波での観測もします。

編集部

オーロラを研究すると何がわかってくるのですか?

佐藤

ひとつは先ほど話したように太陽と地球の関係。また太陽活動の大小によって、地球環境、温暖化とか凶作、宇宙気候ですね。天気というのは短いスケール、気候と言えば半年とか、もっと長いことを意味する。宇宙気候の研究もしていて、1600年代、マウンダー極小期と言われる、太陽に長期間黒点のない時期があった。その時、地球上は寒さが厳しく大凶作だったという記録が残っています。どうして太陽活動がそうなったかとか、どうしてそうなるかということがわかっていなくて今も研究しています。

編集部

オーロラを研究して地球環境のCO2についてとかもわかってくるのですか?

佐藤

それは今まだ調べているところです。地球の大気は全部つながっているわけですから、いつかオーロラのところまで大気が変わっていくはずです。そうなればオーロラも変わる可能性がある。それは影響を及ぼさないわけがない。でも、そうなるにはまだまだ時間がかかります。

オーロラ研究の歴史

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編集部

オーロラの研究はいつから始められたのですか?

佐藤

オーロラの研究が急速に進歩し始めたのは人工衛星が打ち上げられてからです。そこが幕開け。
赤祖父俊一先生という世界的に有名な方がいらっしゃいます。カメラの写真しかなかったころ、観測所で撮ったカメラの写真を寄せ集めて、あとは豊かな想像力を発揮し、オーロラ爆発の全体像を時間の経過で極域全体にどうなるかということを示す、人工衛星で撮ったかのようなスケッチ絵を作った。それはすごいです!

赤祖父先生の論文が1960年代ですから、オーロラの研究はまだせいぜい4、50年というところです。
大事なことですが、最近は省エネや技術改革もあって、観測を無人化していこうとしています。できうる限り人を減らして、最新の観測装置でやっていこうというのは国際的な動きです。世の中が変わったせいもあって、今は職場でも大学でもなかなか越冬隊をだしてくれません。回転の速い社会環境は、日本を離れて1年半も空けるということは職場にとっても難しくなったんですね。

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太陽活動極大期の赤いオーロラ
写真提供:国立極地研究所

編集部

でも、越冬隊でないとできないことがあるんですよね?

佐藤

あります、あります。
北極でオーロラが見られるから、オーロラの研究をするなら北極でもいいんじゃないかと言われるかもしれません。でも、日本は共役点研究だから南極に行く意味があります。

共役点オーロラ

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アイスランド観測基地 フッサフル全景
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アイスランド観測基地 チョルネス装置
2点とも 写真提供:国立極地研究所

編集部

共役点とは?

佐藤

日本は昭和基地とアイスランドの基地とでオーロラを観測しています。『共役点オーロラ』と言いますが、この2カ所の観測点は北半球と南半球であることをのぞけば、一本の磁力線に結ばれた地磁気の緯度経度が重なり合う世界で唯一の観測点です。つまり日本しかこの観測はできないということになります。

編集部

『共役点オーロラ』って、北と南、同じような形になるのですか?

佐藤

昔は同じようになると思われていた。でも、実際にはアイスランドのオーロラは昭和基地とは形が違ったり、タイミングが違ったり。

編集部

どうして同じだと思われていたんでしょう?

佐藤

ちゃんと調べる前は、同じ磁力線の上ですから、北も南も同じようなオーロラが出るはずですよということで、アラスカ大学の人が飛行機を飛ばした。アラスカの上空と、ニュージーランドから南の方、南北のオーロラの比較をしたんですね。その時にセンセーショナルな、両方がそっくりな写真が撮れたのでそれだけが先行してしまったんです。でもその後、そのグループが書いている論文は、こんなに違うのがいっぱいありますよという論文(笑)。実際には、北と南、そっくりな方が稀なんです。

編集部

それも、ずっと続けてきた研究の結果わかったことですよね。

佐藤

アイスランドと南極が一緒に観察できるのは日本でいう春と秋のお彼岸の頃だけなんです。その時期は両方が一緒に暗くなる。必ず毎年、新月の時期に20日間くらい観測するというのを続けています。やめてしまったら、再開するのはとてもむずかしい。

編集部

極地研というとすぐ南極観測隊をイメージしてしまいます。北半球もあるわけですよね。

佐藤

両極比較で地球全体をみましょう。極から地球全体をみましょうというのが極地研。南極と北極。南極研究所とつけた方がわかりやすのだけれど、あえて両極からということで極地研究所とつけたんです。

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編集部

極地研の研究はいくつかに分かれているけれど、オーロラはきれいでいいですよね。見たいですね。

佐藤

是非、見に行ってもらいたい。人の話を聞くのもいいけれど、自分の目で1回見てほしい。カナダやアラスカへお金を貯めてツアーに行って。絶対感動しますよ。夢をもってほしいですね。今の経済状態の中で言いにくいけれど、そういった夢のために働いてほしいです。

撮影場所:国立極地研究所
写真:五来 孝平
国立極地研究所ホームページ