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インタビュー

もうひとつの箱根駅伝
――箱根駅伝予選会川内優輝氏

秋の風が吹くと、立川には駅伝予選会の空気が漂う。
毎年500人以上の学生が立川市街を走り抜ける。
ひとりひとりにドラマがある箱根駅伝。
昨年、予選会を38位でゴールし、
第85回箱根駅伝6区を学連選抜の襷をかけて走った川内優輝さんに話を聞いた。

川内優輝さん

'川内優輝さん'

1987年生まれ。春日部東高校出身。
学習院大学陸上部時代は、関東インカレ2部ハーフマラソン3位、立川ハーフマラソン6位、上尾シティハーフマラソン3位の好成績を残し、また、大学4年の時、日本学連選抜でニューカレドニアマラソンのハーフマラソンの部に出場し優勝、東京マラソンでは19位になっている。箱根駅伝には、2年生と4年生、2度学連選抜で出場。いずれも6区を任された。今年は60分を切る好タイムで区間3位に。
埼玉県庁に就職、現在は春日部高校定時制主事。生徒と同じ目線に立とうと髪を切った。福岡国際マラソンに出場予定。

編集部

今年はインフルエンザの関係でエントリーできる人数が増やされたんじゃないの?

川内

はい。でも走るのは12人です。

編集部

今年の学習院はもうエントリーできるのですか? 去年は大変でしたね。

川内

はい。うらやましいことに、今年はもう10人揃ったので。

編集部

でも、今年も出られるか出られないかっていう大学多いんじゃない?

川内

多いと思いますよ。2年前に学連選抜で一緒に走った大学でも、あれ以降予選会に出られていない学校がありますから。予選会も実は標準タイムというのがあって、5000m17分もしくは10000mを35分切らなきゃ出られない。強豪校からすれば、17分なんてC軍でもD軍でも走ります。みんな14分台、中には13分台がいますから。学習院あたりだと、意外と17分切るっていうのはむずかしくて。切ったとしても去年の選手のように16分59秒とか。でも逆に、その標準タイムがあるから、それを切って出場できるというのが嬉しいですね。

編集部

昨年はあなたを学連選抜に出すために、どうしても予選会に出なきゃならなかったのよね。みんなの気持ちがありがたいわね。

川内

そうですね。

編集部

でも、あなたたちのような学校の方が‥‥。

川内

多いですよ。大多数です。実際そうなんです。箱根を狙えるような学校は、予選会を走っている中でも20ぐらい、いや15ぐらいですね。この20校辺りに、やっぱり壁はありますね。

'川内優輝さん'

編集部

なるほど。

川内

もうスタートから違います。集団走するところは集団走でがっちり。

編集部

だから、ゴールに同じユニフォームがドドッと入って来るわけね。

川内

そうです。うちの学校のようなところは走力がバラバラなんで、ドンと始まるともうグッチャグチャです。

編集部

去年は学習院大学と一橋大学と取材させていただきました。強豪校と違って、やっとの思いで10人揃えた大学に興味があったんです。昨年47校もエントリーするのを見て、箱根へ行く可能性もない学校がどうしてここへ来るのだろうと素朴に思ったんです。

川内

僕も大学へ入った時に先輩が「箱根、箱根」って言うので、すごいなあと思っていたんです。そうしたらその「箱根」は、実は予選会だった。可能性のない大学にとっては、この予選会が「箱根」なんです。始めのうちは箱根でもないのに「箱根」っていうことに違和感がありました。でもやがて「箱根」っていう所に出られなくても予選会に出ることで、「箱根」を走る人たちと同じ舞台で戦えることが嬉しい、大歓声の中を走れることがひとつの目標なのかなと。

編集部

初めてGマークのユニフォームを見たとき、「え、こんなところに学習院が来てるの?」って思ったわよ。母校ですから嬉しいけれど、意外な感じで。

川内

はい、学芸大さんと間違われたこともあります。

編集部

スタートから応援が違うのね。幟の数だって、本気の学校は全然違うし。学習院って幟あるの?

川内

僕が出るまでありませんでした。でも僕が箱根を走るとき、学校で100本作ってくれました。

'川内優輝さん'
2008年 第85回箱根駅伝予選会時の様子
'川内優輝さん'

編集部

よかったわね~。でも100本も作って誰が持つの? 応援に来てくれたの?

川内

はい。本選にはOBの方々や、学生部の方、学長も来て下さいました。

編集部

そう! 今は大学の陸上長距離っていったら、箱根駅伝! 箱根って特別なのよね。

川内

僕なんかだって大した選手ではないですけれど、箱根へ出たっていうだけでずいぶん注目されました。

編集部

学連選抜に選ばれるんだから、やっぱり大した選手なのよ。しかも2回も出たでしょ?

川内

はい。2年生の時に箱根に出たら、3年生の時にはテレビカメラがずっと1台ついていて、精神的にやっぱり集中できないというか。ああ、これなんだ!って思いました。強い選手なんかは、ああやってテレビに追いかけられながらも集中力保つわけです。本当にむずかしいって思いました。僕は全然ダメでしたから。3年でダメだったから、去年の予選会の時はテレビカメラは寄ってくるどころか、完全無視(笑)だったので、走りやすかったです。

編集部

3年のときはそんなにひどかったの?

川内

強豪校は順番を知らせる学生を用意していて、今は何番とか。
始め突っ込んじゃって走れなくなって、順番を見ているとどんどん落ちて行くんです。そのうち自分が何番走っているのかわからなくなっちゃって。

編集部

で、結局何番だったの?

川内

180番とかじゃなかったかな(苦笑)。だから予選会って、それなりに強い人でもあまり意気込みすぎると、急にガクッときて「え、どうしてこの選手が?」っていうこと毎年ありますよね。

編集部

急に走れなくなる、 あれって何がどうなっちゃうの?

'川内優輝さん'

川内

「あれっ?」って足が急に止まるんです。体が動かない!ってなる。僕なんか5kmの地点でそうなっちゃって。

編集部

5kmってどこ? まだ自衛隊の中?

川内

はい。その時点でもうきつくて。駐屯地の中は1周2kmちょっとなので、5kmというとこれから市街地に出て行くところ。もうほんとにダメだったんですよ。ダメだって思ったら、もうダメですね。

編集部

ダメなんだ‥‥。

川内

まだダメじゃなかったんですよ、タイム的には。
でも、長距離は精神的なものが大きいですね。10キロの地点ではもうどうしようもなくて。

編集部

そうならないためにはどうしたらいいの?

川内

監督にもよく言われるんですが、頑張りすぎるなって。
いかに心に余裕をもって走るかが大事だと思います。

'川内優輝さん'

編集部

今年のお正月走る前にテレビに映っていたけれど、とってもニコニコして超余裕でしたよ。

川内

いろんな人に言われます(笑)。
2回目だからどうとか、君だけなんとかとか。

編集部

そりゃ言われるわよ、笑ってるんだもの。
早く走りたいって体から表れていたわよ。

川内

それはありましたね。大舞台で走るチャンスを与えられたことが本当に嬉しかったです。練習もそれなりに積んでいたので、絶対60分は切れると思っていましたし。あの時は前半自重し過ぎて遅かったんですよ。でも遅く入った分辛くならなくて、宮ノ下でもまだ行けるって。そこから農大を追いかけて。

編集部

農大はかわいそうだったわね。脱水のような状態になるのはなぜなの?

川内

箱根ぐらいの区間距離は、あそこに出る人たちにとっては何でも無いことなんです。それなのに状態が悪くなるというのは、精神的なものがすごく影響します。やはりプレッシャーとか前の晩、緊張からあまり眠れなかったりとか。そういうので体調が狂ってアップを多めにやり過ぎちゃったり、または逆に少な過ぎてとか。

編集部

襷は繋がなきゃならないしね。

川内

ええ、逆にあれは重いんです。軽いんですけれど、重いんです。強豪校は全員で本当に寝食を共にしてこの駅伝にかけてきています。強豪校の駅伝にかける気持ちは並々ならぬものがあると思います。地方から出てきていてお金もそれなりにかかっているし、学校から援助があるっていっても、やはりかかるものはかかります。強豪校には高校の時にいい記録を出している人がいっぱいいて、こんなんじゃダメだっていう思いとか、箱根に出るために大学に入ったんだという思いとか、いろいろあってそれだけ真剣になるんだと思いますね。

編集部

一方本選に行かない学校出身者として予選会を語るとどうなるのかな?

川内

うちのような学校は本選へ出ようではなくて、チームの記録を超えようという目的でやっているので。僕なんかも現役の時は、箱根へ行こうではなくて、みんなで25番以内を目指そうというような感じでやっていました。そのような違った目的でやっている人たちにもスポットを当ててもらえればと思います。応援の人も速い方だけ目がいって、速い人が通り過ぎたからさあ行こうじゃなくて、意外と最後の方を走っている人の方が、一生に一度の「箱根」なのでそういう人の方が応援も心に響くんだと思います。

インタビュー:清水恵美子 えくてびあん&多摩てばこネット