- エリア 幸町

肉屋として出店していたスーパーマーケットの閉店を機に一念発起して本場ドイツでハム・ソーセージの製法技術習得に渡独。
研修を繰り返しながら本場の伝統製法を習得。
2005年『ゼーホフ工房』をオープン。

57歳で新たな挑戦!ピンチをチャンスに。
すぐに『ゼーホフ工房』の看板が目に入ります。
お店の扉を開けると、そこはもう本場ドイツの工房にいるかのような空気感。
ショーケースには日常では目にしない形やサイズのハム、ソーセージ、ベーコンが彩り豊かに並んでいて、思わずと見とれてしまう光景です!

「もともとは、すぐ近所にあったスーパーマーケットの中の肉屋だったんですよ。
それが、スーパーの閉店が決まって、さぁどうするかってなったんですよね。
仕事先がなくなっちゃうわけですから。
その頃、兄貴がやはり東大和で肉屋をやっていて、時々手伝いにいっていたんです。
兄貴は先見の明があるというか、「これからの肉屋は肉を売るだけではやっていけない」と言っていましたから、自分のところでハムやソーセージを作っていて、私も手伝っていたんですね。
そんなときに、ドイツのハム・ソーセージのマイスターの資格を持っている先生が、ドイツ研修旅行を企画しているという話を聞き、せっかくだから本格的にやってみようと参加したんです。
それが57歳のとき。考えてみれば、スーパーの閉店がなければ、ドイツには行っていなかったと思うので、人生は面白いですよね」
57歳からのドイツ研修! 人生100年時代とはいえ、還暦が近づく年齢で新たな挑戦に踏み出した松澤さんのチャレンジ精神に感服します。
どんな研修だったのでしょう。
伝統製法を守り続けるドイツの職人魂にふれて
マイスター制度があり、資格を取得するために製造技術の取得に励むという伝統が確立しています。
私が通った学校は、ドイツ・バイエルンの世界最古の食肉学校でした。
研修とはいえ、3週間みっちりハム・ソーセージを作り、また講義も充実していました。冬の時期でしたが、朝は4時起きですよ。
学校がある場所は、緯度が北海道と同じくらいですから気温は氷点下。
まず作業場につくとみんな一目散に入るところは冷蔵庫なんですよ。
外より冷蔵庫の中のほうがあたたかいのでね(笑)。
寒さに耐えながら毎日朝から一種類あたり60㎏分ぐらいのソーセージを何種類も作るんです。
もちろん講師はドイツ語ですから、研修を企画された小林先生が通訳をしてくださりながらの実習でした。
ソーセージの味を決めるいちばんのポイントは、香辛料の配合なんですが、細かく教えてくれるわけではないので、マイスターの作り方を見て覚えるわけです。
とても内容の濃い研修でしたね。修了時には、700年の歴史をもつリングリース市庁舎で市長から直接修了証を頂いたのですが、感無量でした」


香辛料やスモークチップはすべてドイツ製を使用
けれど、絶対に貫いているのは、香辛料やスモークチップはドイツ製を使用するというポリシー。
取材当日は、ちょうどベーコンをスモークし終わったところ。スモークハウス(燻製器)をのぞかせていただきました。
扉を開けるとふわっとスモークの薫りが広がります。
それだけで何か幸せな気分。
「このベーコンは昨日の夜10時くらいに火を入れて7時間燻製してるんですよ。
今、粗熱をとっているところ」

「これがチップね」
と言って見せてくれたスモークチップ。ドイツから輸入したもので、様々な木がブレンドされているそう。
「はい、これ」
と言って薄くスライスしたベーコンを試食させてくれました。
そのスモーキーな香りはすぅっと鼻に抜け、塩味と香辛料の風味が前にですぎず、肉のうま味を引き出しています。
雑味のない自然な味わいは、ベーコンづくりを愛する思いまで込められているかのよう。
「やっぱり味を決めるのは香辛料なんで、これは企業秘密ですね(笑)」
と笑顔を向けてくださる松澤さん。
本当にソーセージ作りがお好きなんだなぁと感じさせてくれます。
とはいえ、開店して20年、いろいろな困難もあったのでは……。
とはいえ、開店して20年、いろいろな困難もあったのでは……。
お客様に支えられての20年
いまがいちばんいい!
「開店当初はとにかく全種類試食を出していたんです。
なじみのないハムやソーセージを出すわけだから、まず味を知ってもらうことが大事ですからね。
最初は見慣れないハムやソーセージも、口にすると皆さん気に入ってくれて、そのうちにお客様それぞれのお気に入りの商品がだいたい決まってくるんですよ。
また、コロナ禍前までは試食以外に、いろいろなイベントも定期的に開催していましてね、店の中で新商品などの即売イベントなど、けっこうにぎわいました。
お客様も、最初の頃は食にこだわりのあるご年配の方が多かったのですが、今は若い方が増えましたね。
大手のスーパーがいろいろなところに進出して、小売店は厳しいのが一般的な現状ですが、うちの場合は売上的にもじつは今がいちばんいいんです。
食に対する関心がこの20年で上がってきたのかもしれませんが、地域だけでなく遠くからも来店してくださってありがたい限りです」

店にいるのが楽しい。
身体が続く限り、おいしさを追求したい
57歳で「ゼーホフ工房」をオープンされて今年で20年ということは…、ん? そんなお年? と思わずお顔をじっと見てしまうほど、年齢を感じさせない若々しさをお持ちの松澤さん。若さの秘訣はなんなのでしょうか。
「とにかくね、店にいるのが好きなの。店は週休2日ですけれど、休みの日もだいたい店に来てます。
仕込みもあるし、時間のかかる作業は休みの方がはかどるし、自分にとってはまったくストレスではないんです。
それに、お客様においしいものを提供するのはもちろんですけれど、いつも同じものではやはりあきられちゃうでしょ。
だから新商品を試作したりするのも休みの日がいいんです。それが楽しいんですよ。
自分では若いとか思わないけど、笑顔がいいねとはお客さんに言われます」
若さの秘訣は、自分の好きなことを全力で楽しむことなのかもしれません。
松澤さんのお話を聞いていると、あふれるソーセージ愛がこちらに伝わってきて、とっても幸せな気分になります。
20年間、お店を経営してきた中には、厳しいこともあったと思うのですが、ハム・ソーセージ作りへの探求心が、苦しみに勝っていたのでしょうね。
ここまで続けてこられた原動力は何なのかお聞きするとすぐに一言。
「おいしいって言ってもらえるのがいちばんうれしいんですよね」
皆様もぜひ、20周年を迎えた「ゼーホフ工房」で松澤さんのソーセージ愛にふれてみてください!
【営業時間】10:00~19:00
【定休日】火・水曜日
【交通】立川駅北口バス9番「幸町団地行」終点下車
または、多摩都市モノレール 玉川上水駅下車徒歩15分