気になる人・インタビュー

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気になるあの人…突撃インタビュー
立川市内で生産される名産品の数々。育てる方々のインタビュー。

負けず嫌いで取り組み続けた先に行きついたのは“自然との共生”でした。

立川駅からバスで約15分。若葉町三丁目バス停近くに尾﨑農園さんがあります。
すぐ近くにある、その日穫れたての尾﨑農園さんの新鮮野菜が並ぶ直売所を通り越すと、目の前には、きれいに整えられた畑が広がります。
これから最盛期を迎えるかぶ、そして大根、まだ小さいにんじんなど、整然と並ぶ畑で尾﨑さんにお話を伺いました。
尾﨑信介さん

東京都立川市出身。
2017年にサラリーマンから実家の畑を継ぎ、農家へ。
農業経験ゼロから出発し、試行錯誤を繰り返し、今では特色のある農園として近隣の方々へおいしい野菜を供給している。

「おもしろそう」。軽い気持ちで
夫婦で農業の道を選択

お邪魔した尾﨑農園さんは、比較的農地は小さく、その分とても効率よく栽培している印象。
代々農業をされていて、小さいころから手伝っていたのかなと思ってお話を聞いてみると、とんでもありません。

「うちは祖父の時代は植木をやっていたんですよ。父親は別の職業でしたから畑はまったくやっていなくて、栗の木が植わっているくらい。栗は何も手をかけなくてもいいですし、収穫も年に一度ですからね、農家といえるほどではありませんでした。その後、兄が畑を継いで農業を始めていたんですが、体調を崩してできなくなり、私に畑をやらないかと話がきたんです。その頃は化粧品関係の通販会社に勤めていて、まだ若い会社でやりがいがあったんですけれど、農業も何となくおもしろそうかなと思えて決心しました。
当時はもう結婚していたんですよ。で、妻に聞いたら『いいんじゃない』って背中を押してくれて、この世界に飛び込みました」
奥様の真己子さんは、とても野菜が好きとのこと。
でもそれだけで会社員から農家に転身するのは、かなりハードルが高いようにも思うのですが、奥様ご本人はとても自然に受けとめたそうです。
真己子さんは
「野菜好きだしね、虫も好きだから畑は抵抗なかったですし、主人にむいているんじゃないかなと思ったんですよ」
とのこと。

自然相手の作業は
想定外の連続

夫婦で農業のスタートを切ったのですが、何しろ野菜のことは右も左もわかりません。
近くで農業を営んでいる親戚のところでまずは1年、修行生活が始まりました。
2年目からは、親戚の畑を手伝いながら、自分の畑での野菜作りも開始、3年間の修行を経て独り立ちしました。

「とにかく作業は大変でしたよね。親戚のところと僕のところは、そんなに離れていないのに、土質が違うんです。同じ関東ローム層の黒土ですが、親戚のところは水はけがいい。それで、同じ分量の肥料を入れていたら、大根が9割がた腐ってしまったんですよ。もうやるせないというか、落ち込みました。でも近所の農家さんに聞いてみると、うちの土は保水力があって、むしろ良い土質とのことなんです。悔しいですからね、いい大根できるまでがんばりました」

行きついた先は
自然との共生

他にも様々な体験があったそうです。
例えば雪が降ったら野菜がダメになるんじゃないかと思って、慌ててシートをかけにいったところ、近所の先輩に聞くとそんなことは必要なかったり、台風の中、枝が折れたり柵が倒れないようにつきっきりで畑にいたり。
そんなことを繰り返すうちに、自然相手の仕事だからどこかで「しょうがない」と気持ちを大きくもっていくことの大事さがわかったそうです。

「人間が天気のことをどうすることもできないんですよ。でもその中でいかにおいしい野菜を作るか、難しいだけにやりがいもあります。そんな気持ちになるまでは、奥さんに当たってしまって迷惑をかけたこともありましたね(笑)」
 

畑の特徴を生かして
少量多品種の栽培へ

尾﨑さんの畑は、最初にお伝えしたとおりコンパクト。その中で経営していくには、効率の良い栽培をする必要性があります。

「始めたころは、西洋風の野菜とか、少し変わったものを育てていたんですが、あまり売れないんですよ。農地が小さいのなら、もっと効率よく回していかなければ経営が成り立ちませんから、少量多品種に切り替えました。野菜は基本的には同じところで連作はできませんから、しっかりと作付けの管理をして、少しでも効率よく畑を使っていくようにしました。そういう管理、好きなんですよね。また、畑が狭い分、夫婦二人とバイトさんで、雑草も取り除けるので、むやみに除草剤をかける必要がないところも、安心して提供できる野菜づくりにつながっています」

畑の周囲は住宅街。学校もあります。

農家に転身して8年、今では自信をもって販売できる野菜農家へと成長しています。
今回「立川名産品レシピ」コーナーでご紹介する尾﨑農園さんのカブは「サラダラティーナ」という品種。
甘味があって柔らかく、サラダにおすすめの生のまま食べられる品種。
この時期の一押しです。

最後に、尾﨑さんご夫婦に農業をやっていてよかったことをお聞きしました。
「もちろん、食べてくれた方が『おいしい』と言ってくださるのがいちばんうれしいことですね。それに会社員時代は人間関係のストレスがあったけれど、今は自分の好きなように仕事ができるからストレスはまったく感じなくなりました。同じ年代の仲間とも知り合えて、情報交換し、お互いによい方向を目指していけるのも楽しいです」
真己子さんは「農家をやる前は、近所の人とのつき合いはまったくありませんでしたけれど、今は畑で作業していると近所の方が『若いのにえらいね』なんて、声をかけてくれて、なんだか心があったまります。
自然の中で小さな生き物とも触れ合えながら暮らしていけることもすごく楽しんでます」とのことです。

研究熱心なご主人と自然体で支える奥様。
夫婦で楽しみながら野菜作りをしている尾﨑農園さんの姿に、新しい農家の形を見たような思いでした。
そして奥様の真己子さんは、畑で採れた野菜を使ったお料理も得意とのこと。
機会があれば、「尾﨑さんちの食卓」を皆さんにお届けできたらいいなぁと、勝手にスタッフで盛り上がった取材でした。

尾崎農園の野菜が購入できる主な直売所。

立川市若葉町3-18 付近

立川市若葉町3-54-5付近