インタビュー

立川から発信するアーティスト Vol. 6油彩画家 槇島 藍さん

Painter 槇島 藍 (Makishima Ai)

多摩美術大学 造形表現学部
油画専攻卒業。
同大学院修士課程 油画専攻前期修了。
美術館に勤めた後、自身のアトリエを持ち、
本格的な制作活動を始める。
立川の姉妹都市、長野県信濃大町でのイベントをはじめ、
個展、グループ展、アーティスト・イン・レジデンス
など幅広く活躍。
2015年、国営昭和記念公園 花みどり文化センターにて、
インスタレーション「森のみる夢」を開催。
市、内外の絵画教室で定期的に指導も行っている。

HP: 只今リニューアル中!

◆さいわいの森 (photo : 阿部勇司さん)

土や水、風、草花など自然の姿を
のびのびと映し出した絵は、槇島さんそのもの。
自然も人も、受け取る心があってこそ。
循環させていくことの大切さや少し立ち止まって、
深呼吸することの大切さなどを教えてくれる。

自分の『核』となるような
制作をして、
人生、納得して終わりたい。

それまでにも油絵を描いてきましたし、
グループ展をはじめ、様々な発表もしてきました。
でも本格的な活動は、2011年に起きた
東日本大震災の後です。

明日、死ぬかもしれないと自覚した時に、
何か気付かされた気がしました。
その後も原発のことがあったり。
被災者の方々にとっては美術どころじゃない。

絵はすぐに必要なものではないとわかっていても、
私の頭と身体の中にはイメージがあったんです。
ちゃんと出してから死なないと納得いかないなって。
震災の3ヶ月後には、アトリエを借りていました。

立川の姉妹都市、
信濃大町でのイベントが
地方を考えるきっかけに。

人でも、ものでも、エネルギーを交換できるって、
すごく大事なことだと思います。
信濃大町のブルーベリー農家の
古民家で展示をさせて頂いたことがあるんですが、
姉妹都市って本当におもしろい。

お祭りでもイベントでも
毎年やらなきゃって固定化すると、だんだん
難しくなってくるんですけど。
連携をしながら、お互い自由に行き来できて、
面白い発想などを共有できるのはいいなぁって。

◆風来「線や色、自然がもつ最大の魅力のようなものを瞬間的にとらえて、それを抽象化して描くことが多い」と槇島さん。(photo : 阿部勇司さん)

底力を感じる、立川が好き。

アニメ、音楽、美術、スポーツなど、
あらゆるジャンルにおいて
立川は開けてますよね。
色々コラボしながら、様々な展開ができるのも
立川ならではだと思います。

また、立川はあちらこちらから
人が集まってきている。
地方とはひと違った都会の良さなのか
どこそこの誰で、何故そこにいて
それをしているのかなど、
あまり問われないところがありますね。

そんな場所で、「私は音楽やってます」、
「美術やってます」っていう
自己表明自体が自由さを生んでいる気がします。
遊びがあって、フラットなところで
表現を見てもらえる場所。
立川にはそれだけ沢山、表現者がいるからかも
しれないですね。

◆2015年、昭和記念公園花みどり文化センターで開催された、インスタレーション「森のみる夢」の会場。

描いたものを、
誰かが見てくれるという快楽。

内向的なほうではなかったけれど、
絵を描くことでコミュニケーションを
とって来られたところはあります。

小学生の時から絵を描いたり、
図工の時間が大好きでした。
中学、高校と美術部に入り、
そのまま美大まで。
高校の美術部の先生がまた特殊な先生で。
美術部に入ったとたん、
油絵の道具を一式くださった。
そこから油絵の道がつけられた気がします。

自分が全面に出るよりも、
媒体を通して見せたい、
何かを発信したいという思いが
常にあります。

◆屋根裏や床、沢山のキャンバスに囲まれた槇島さんのアトリエ。壁の絵も、もちろん作品。

気持ちが楽になるもの、
ほぐれるようなものを創りたい。

自分と社会がちゃんとつながって、
世の中に向けて問題提議するようなものが
美術の在り方の、ひとつの理想です。
ことに現代の美術は既成の
価値観を変えていくような
ものが主流です。

昔は、人の苦しみや悲しみを
きちんと伝えている絵が
すばらしいと思っていました。

◆みず・うみ (photo : 阿部勇司さん)

今は、自然がもつ大きなエネルギーの流れだったり、
土や水など、自然からくるものに
気持ちがほぐされ、温かくなる。
温泉のようなものですね。

たとえば、疲れて帰ってきた
時などに、絵を見てほっと一息つけたり。
私の絵が、そんな視覚的な
癒しになれたらうれしい。

心療内科の先生が絵を買って下さることも。
カウンセリングルームに飾って、
活用されていることに喜びを感じます。

◆あたらしい人へ (photo : 阿部勇司さん)

その人が“描きたい”と
言ってる時点で、
描いていいんだって思う。

自分の好きなことを
仕事にしちゃうと苦しいけれど、
自分の意志や、表現したい
美しい世界を持ち続けられる限り、
描いていけると思います。
私は、ほとほと精神年齢が低くて(苦笑)

もちろん他者と接する時は
大人として振る舞いますけど。
一人になって自然の絵などを
描く時にはまるで、5・6才の子供ですね。
親が、私のそういうところを
大事にしてくれたのかな。

空がキレイ!  川がキレイ!
つやつやした葉っぱのやわらぎがステキだ…。
新しい気持ちや見え方が尽きた時には、
もう描かなくてもいいのかもしれません。

一人ひとりの素直な心を
大事に出来るように、
芸術がある。

色々な作家の作品を観て、
“すごい!なんてきれいな人
なんだろう”って思うことがあります。
いいなと思う仕事をしている人は、
自分をブロックしないでどんどん進んでる。
結局、自分の磨き方なんだろうな。
技術じゃなく、生き方みたいなものが
歌や音などと一緒で、
筆や絵の具にも表れると思います。

子供の絵はおもしろさが、
シニアの絵には
いとしさが溢れてる。

やっと自分の時間が出来て
油絵を描きたいという
60代から70代の方や、
未就学の子供たちを対象とした
教室を持っています。

子供は感性の弾力がよくて、てらいがない。
シニアの方が描く愛犬やお孫さんの絵なども、
またいいんです。
今まで生きてきて、何が一番大事だったのか、
そんなものを感じさせられますね。

きれいなものを創って出すというより、
「今ある世界のこれがきれいだよ」って、
指し示すみたいな人が多いです。

私自身、色々な作家の方や、
人から教わって今があります。
バトンって言うのかな。
自分の教えられる範囲で、
少しでもお返しをしていきたい。

大事なものを描くことは、
大事なものをとらえること。

絵を描くことによって、大好きな対象と
自分の中の気持ちを
織り交ぜることが出来ます。
愛情の確認じゃないけれど、「絵を描く」という
ワンクッションがあることで、
思いも熟成される。
見つめたり、描いたりする時間の中で。

制作していても、次はこうしたいという
思いが出てきてしまう。
死ぬまでに全部、出せるのかな。
油絵を足腰しっかり立って
描くとなると…う~ん、少ない。
人生、あと二周くらいほしいですね(笑)

※記事の内容は掲載時のものです

by   T.I